人もをし 人も恨めし あぢきなく
世を思ふゆゑに もの思ふ身は
人もをし 人も恨めし あぢきなく
世を思ふゆゑに もの思ふ身は
歌意
人が愛しくもあり、また恨めしくもある。つまらない世の中だと思うせいで、あれこれと物思いに悩む我が身にとっては。
超現代語訳
人間のこと好きだったり嫌いだったり、自分でも情緒不安定すぎ。世の中クソだなーって思うと、余計にいろんな感情が爆発しちゃうんだよね。面倒くさい性格だわ私。
この歌を、あなたの言葉で訳してみませんか?
みんなの超現代語訳に投稿する決まり字
ひとも
文法解説
【初句・二句切れ】「人もをし」の「をし」は愛しい。「あぢきなく」はつまらなく。「思ふゆゑに」は思うせいで。
掛詞
なし
補足解説
後鳥羽院。鎌倉幕府倒幕(承久の乱)を企てた天皇。人間への愛憎や世の中への不満で心が揺れ動く自分自身を、客観的に見つめた歌。
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この歌はどんな場面で詠まれたのか
ある人はいとおしい。ある人は恨めしい。世の中をつまらないものと思うがゆえに、あれこれと思い悩んでしまう我が身よ——率直に言えば、統治者の孤独を詠んだ歌です。
作者の後鳥羽院は、上皇として院政を敷き、権力の頂点にいた人物です。人を引き立てることも、退けることもできる立場にいました。その立場から人を見れば、味方もいれば敵もいる。愛しさと恨めしさが同時に湧いてくる。
「あぢきなく」は、思うにまかせない・どうにもならない、という意味の古語です。世の中が自分の意のままにならない、という感覚がここに込められています。誰よりも大きな力を持っていたはずの人が、それでも思い通りにならないと嘆いている——そこにこの歌の重さがあります。
『続後撰和歌集』に収められています。
「をし」と「恨めし」を並べる
この歌の構造は明快です。上句で相反する二つの感情を並べ、下句でその原因を示す。
「人もをし」の「をし」は「愛(を)し」で、いとおしい・慕わしいという意味です。これと「恨めし」を、同じ「人も」という形で並べています。同じ人間に対して両方の感情を抱くとも読めますし、いとおしい人と恨めしい人がそれぞれいる、とも読めます。
注目したいのは、感情を先に置いて理由を後に回した順序です。まず「いとおしい、恨めしい」と感情が噴き出し、そのあとで「世をつまらないと思うからだ」と自己分析が続く。理屈より先に感情が来る、この順番が歌に生々しさを与えています。
結句「もの思ふ身は」は体言止めです。言い切らずに終えることで、思い悩みが今も続いている余韻が残ります。
詠み手・後鳥羽院について
後鳥羽院(1180〜1239年)は第82代天皇。譲位後は上皇として長く院政を行いました。
歌人としての功績は大きく、『新古今和歌集』の編纂を命じた張本人です。院自ら撰歌に深く関与し、藤原定家をはじめとする撰者たちを指揮しました。和歌所を再興し、歌合を盛んに催すなど、新古今時代を主導した人物といえます。
承久3年(1221年)、鎌倉幕府の打倒を企てて挙兵しますが敗れ(承久の乱)、隠岐島へ配流されました。そのまま都に戻ることなく、19年後に隠岐で崩御しています。
なお百人一首では、99番にこの後鳥羽院、100番に子の順徳院が置かれています。ともに承久の乱で配流された父子を最後に据えた構成には、定家の思いを読む説がありますが、定まった解釈はありません。