いにしへの 奈良の都の 八重桜
けふ九重に にほひぬるかな
いにしへの 奈良の都の 八重桜
けふ九重に にほひぬるかな
歌意
いにしえの奈良の都で咲いていた八重桜が、今日はこの九重(宮中)で美しく咲き誇っている。
超現代語訳
昔の奈良のブランド桜を、今の宮中で見れるとか最高じゃない? レトロな良さと今の華やかさが合わさって、まじで映えまくり。エモいね〜。
この歌を、あなたの言葉で訳してみませんか?
みんなの超現代語訳に投稿する決まり字
いに
文法解説
【句切れなし】「いにしへ」は古い都(平城京)。「けふ」は平安京の現在。「にほひぬるかな」の「ぬる」は完了、「かな」は詠嘆。
掛詞
「奈良」と「なら(楢)」、「九重」と「ここのへ(花びらが重なる)」
補足解説
伊勢大輔。奈良から献上された八重桜を受け取る役目を任された際に詠んだ。古都奈良と現在の都の繁栄を桜の美しさに重ねて称賛した晴れやかな歌。
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この歌はどんな場面で詠まれたのか
この歌には、はっきりした逸話が伝わっています。
一条天皇の御代、奈良から宮中へ八重桜が献上されました。その受け取りと、桜を題にした歌を詠む役目は、当初は先輩女房の紫式部が務めるはずでした。ところが紫式部は、新しく出仕したばかりの伊勢大輔にその役を譲ります。
新人にとっては、いきなりの大舞台です。しかも見守っているのは中宮彰子と、権勢の頂点にいた藤原道長。道長が「早く」と促すなか、伊勢大輔はその場で即興でこの歌を詠み上げました。居合わせた人々は感嘆したと伝えられています。
『詞花和歌集』春に収められ、詞書にもこの折の事情が記されています。宮中デビュー戦で完璧な一首を返した、という逸話とともに記憶されてきた歌です。
数字を重ねる、という技
この歌が即興として見事なのは、言葉の仕掛けが幾重にも組まれているからです。
まず「いにしへ」と「けふ(今日)」。過去と現在が対になっています。次に「奈良の都」と「九重」。奈良は旧都、九重は現在の宮中を指します。場所も対になっている。
そのうえで数字が効いてきます。「八重桜」の八重を受けて、「九重」で一つ数を増やしているのです。八重桜は花びらが幾重にも重なる桜。それが九重=宮中で咲き誇る、と詠むことで、旧都から新都へ、八から九へと、美しさが一段上がったという祝意になります。奈良の都が「七重七堂伽藍」と称されたことを踏まえる説もあります。
なお「にほひ」は香りではなく、色が美しく映えることを指す古語です。目に鮮やかに咲いている、という視覚的な表現になります。
詠み手・伊勢大輔について
伊勢大輔(いせのたいふ、生没年未詳)は、平安中期の女房歌人です。祖父は『拾遺和歌集』の撰者とされる大中臣能宣(百人一首49番の作者)、父は大中臣輔親。代々、伊勢神宮の祭主を務めた歌の家に生まれました。
中宮彰子に仕え、紫式部・和泉式部・赤染衛門といった当代一流の女房たちと同じ場にいました。この八重桜の逸話は、その紫式部から花を託されたという点でも語り継がれています。
家集に『伊勢大輔集』があり、勅撰集にも多くの歌が採られています。